小路幸也 『スタンド・バイ・ミー』

スタンド・バイ・ミー―東京バンドワゴン
 老舗の古本屋兼併設カフェ「東京バンドワゴン」を舞台に繰り広げられる、堀田家の人々の周りに起こる大小さまざまな事件と家族の姿を描いたシリーズの3作目。店主の勘一の孫で跡取りの紺と青それぞれの伴侶との間に生まれた子どももすくすくと成長を遂げる中で、<ほったこん ひとごろし>と書かれた本が売られてきたり、近所に不審な人物がうろつき始めたり、また曾孫の研人の同級生の女の子の後を羊がついてくるなど、様々な事件が起こります。

 1冊で季節もひと回り、3冊目ともなれば各々が成長したり転機を迎えたり新しい家族が増えたりということで、本書からは冒頭に人物相関図が付いています。第1作からの読者としては、この図に凝縮された家族の歴史を振り返ることになるわけですが、様々な変化を受けながらも、久しぶりに堀田家に「帰ってきた」という、読んでいてホッとする空気は本書でも変わりません。どうも一方的に情報や娯楽をうるさく垂れ流されるのが苦手なので、私は今も昔もテレビはほとんど見ませんが、「古き良き時代のホームドラマ」の空気そのままの本シリーズの良さは変わらずに健在です。
 ですが、いかに堀田家の人々が古き良き日本にあった「理想の家族」であろうとも、彼らが家族としてその場所に存在するに至った経緯は実に複雑ですし、ドロドロとした人間ゆえの事情があってのこと。だからこそ、その上でもなお「理想の家族」であり続ける堀田家の人々は一層魅力的なのでしょう。
 そして人間の欲望からの行動の汚さも描きつつ、最後の最後のところで根底にあると信じる善良さや本来の優しさを諦めないスタンスこそが、読者もまた心のどこかで「あって欲しいと願う」この作品世界の居心地の良さに繋がるのでしょう。