シャーロット・ラム 『薔薇の殺意』

薔薇の殺意 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
 母親の強い願望によって名門ドラマスクールに入校したアニーは家に下宿する青年との恋を密かに育みますが、学校での指導者の一人に性的な関係を強要されます。この卑劣な男の所業を知った学校の上層部は、彼を解雇して警察に引き渡しますが、事件を知ったアニーの恋人は怒りに任せて出奔して以来消息を絶ってしまいます。それから7年が経ち、アニーを逆恨みする男からのバレンタイン・カードに怯え続けますが、彼女はテレビ女優としての成功を手にして有名人となります。そんな中で7年ぶりにかつての恋人と再会したアニーですが、彼女の身の回りだけでなく、出演しているドラマ関係者の中でも事件が起こり始めます。
 一応のミスリーディングは施されているものの、伏線は割と分かり易いことはまず指摘できるでしょう。特に被害者を繋ぐミッシング・リンクを考えれば動機からして犯人は自ずと明らかであり、中途半端ながらも序盤で施された叙述トリックめいたものも単なるモノローグとして終わってしまっていると言わざるを得ません。
 また、アニーという主人公も、どうにも危機感に欠けた不用意すぎる行動が多く、「過去にひどく怯える女性」という設定の部分との齟齬も若干見られ、キャラクターにブレもあるように思えます。
 犯人の狂気についての書き込みやバックボーンに関してはそれなりに描かれていますが、サイコ・スリラーというにはその狂気の書き込みも弱く、全体的に中途半端な印象。
 主人公の母親の身勝手な思いや、主人公に好意を持ちながらも同じ女性として複雑な葛藤を感じさせる女性プロデューサーなどの心理面の書き込みは面白いですが、反面男性に関してはステレオタイプな描写が多いという部分が、全てにおいての弱さに繋がっているのかもしれません。