有栖川有栖 『火村英生に捧げる犯罪』

火村英生に捧げる犯罪
■自宅から見える廃工場から出てくる人影を見たという隣人からの通報で、工場のかつての経営者が見回りに行って見つけたのは、中で不自然な縊死をしていた遺体でした。そして捜査の中で、その時間に近くを通り掛かった会社員の証言と食い違う証言が出てきます。(『長い影』)
■殺害現場に居合わせたのは被害者が飼っていたオウムで、そのオウムが容疑者の一人の名前を口にします。果たして、殺された被害者が最後の力を振り絞ってオウムにその名前を呼ばせることが出来たのか。(『鸚鵡返し』)
■亡くなった大作家の未完成の遺稿から、物語の犯人を推測します。そこでは、円形の庭の周りに四つ配置された離れで殺人事件が起こり、雪の上に足跡が残されていたという事件が描かれます。(『あるいは四風荘殺人事件』)
■同じマンション内で広い部屋に引っ越したばかりの被害者宅に残された指紋から、火村と警察は犯人に自供を迫ります。ですが、犯人は被害社宅に自分の指紋が残っているはずがないと言い張ります。(『殺意と善意の顛末』)
■色違いのシャツを着た男性と写真に写った女性が殺されますが、警察は恋人と思われた写真の男を見つけることが出来ません。ですが、そこに隠された犯人の巧妙なトリックを、ひょんなことで火村は見抜きます。(『偽りのペア』)
大阪府警に届いたのは「これは火村英生に捧げる犯罪だ」という不穏な予告状とも取れる手紙でした。そして同時期に、アリスの元には盗作されたと主張する言い掛かりとしか思えない電話がかかってきます。(『火村英生に捧げる犯罪』)
■古いビルの、打ちっぱなしのコンクリートの何も置かれていない地下室で殺された男は、仰向けになって手に携帯電話を持って死んでいました。この男が残そうとしたダイイングメッセージを、現場に駆けつけることの出来ない火村は現地のアリスからの情報だけで解き明かします。(『殺風景な部屋』)
■激しい雷雨の夜に自宅の庭で殺されたらしい男は、妻との仲は上手く行かず、その上隣人に嫌がらせのようなことを頻繁にしていたといいます。その時間パソコンのカメラとマイクを使って仕事相手と話をしていたという隣人の話と現場の状況から、火村は犯人に辿り着きます。(『雷雨の庭で』)

 2002年から2008年にかけて発表された、犯罪学者火村英生と推理作家有栖川有栖のコンビ物の短編を纏めた1冊。いずれも短編から掌編程度のものであり、それぞれのトリックは小粒ながらも軽く読めるミステリとして一定以上の水準を維持した短編集。
 長編であれば「特に目新しいトリックでもない」と感じてしまうようなものなのでしょうが、短編の中でのワンアイディアとしては、どれも著者の手馴れた上手さが見受けられるものとなっています。
 証言や状況を聞いてそこから証言の齟齬、発想の逆転などから真相を見抜くという意味では、本作に収録されている作品は。比較的安楽椅子探偵物に近いテイストの作風が多い印象もあります。その辺りも、短編という分量からくる性質を上手く生かした結果なのかもしれません。
 個人的には盲点ともいえるトリックだったのは『偽りのペア』。火村がそのトリックに気付くきっかけになった、下宿先の大家の老婆の役どころも粋です。