アンデルセンの赤い靴の寓話に自らを重ね合わせていた、義足でありながら世界的なダンサーとして活躍していた女性が殺され、彼女の残っていた足までもが切断されて発見されました。そして彼女自身の左足の義足と、切断された足の代わりに添えてあった持ち主不明の右足の義足には、彼女のトレードマークでもあった赤いダンスシューズが履かされていました。被害者の義肢を製作する会社に勤めていた徹は、従兄弟の鴇とともに事件の事を調べ始めますが、犯人の魔の手は徹の妹にまで及びます。
義肢ユーザー、義肢装具士など、あまり一般には馴染みのない世界を題材を用いていますが、本作にはそこに生きる登場人物たちの感情や生活が非常に細やかに描かれており、不自由を抱えつつもそれを受け入れて「普通に」生きている人たちのリアルが感じられます。
それと同時に、猟奇的な事件の調査過程で現われる小さな伏線を丁寧に配置し、それらを繋げた延長線上に行なわれる推理による謎の解明の精度も高く、本作は義肢という題材を用いてならではのミステリとして成立していると言えるでしょう。また、被害者の書いた「赤い靴」の物語をミステリ的に捉えた解釈からなるエッセイと、それを見立てたような事件も、実に魅力的な謎の構造を生み出しています。さらには探偵役による推理の披露の際の演出も効果的であり、それに続く犯人の独白により動機の面での一層の説得力と犯行が内包する詩美性を高めていて、この辺りの魅せ方の秀逸さは高く評価したいところ。
健常者と義肢ユーザーの世界との微妙なズレ感や、そこで起こる殺人を巡るドラマ性と、ミステリとしての謎の構築の精度とのバランスも良い作品。