神永学 『心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている』『心霊探偵八雲2 魂をつなぐもの』

心霊探偵八雲 (1) (角川文庫 (か51-1))心霊探偵八雲2  魂をつなぐもの (角川文庫 か 51-2)

 怪奇スポットに行って以来目覚めない友人のことを相談する為に、晴香は同じ大学に通う霊能力があるという噂の斉藤八雲のもとを訪れます。しょっぱなからイカサマを見せ付けられた彼女は八雲に対して反発を覚えますが、子供の頃に死んだ姉のことを言い当てられて彼の能力を見せ付けられます。死者の魂を見ることの出来る赤い左の瞳を持って生まれてきた八雲、八雲を昔から知る刑事の後藤、そして事件に巻き込まれる晴香らのシリーズ。第1巻は出会いからはじまる短編3編+書下ろしの掌編、第2巻は長編+掌編。

 ミステリ的な要素を期待すれば、あまりにも少ない伏線、予想の範囲内の展開と結末、ホラー要素に関しても人物や描写の薄さという欠点は指摘できるでしょうが、癖がなく軽く読めるという点でエンターテインメント性とリーダビリティは一定の水準を保っていると言えるでしょう。その意味では、これと言ったインパクトには薄くとも、作品ごとの質のバラつきがなく、安定したクオリティが保たれているということは確かです。
 シリーズ最初の2作を読んだ限りでは、展開にしろキャラクターにしろ、どこか食い足りないような「薄い」感じは受けるものの、逆に言えば鼻につく癖もないというふうにも言えるかもしれません。そうした面では1巻のようなシリーズ連作短編には非常に向いていた話でしょう。(もっともそれが何冊も続けば、飽きは来るので、早い段階でシリーズ全体の大きな流れへ伏線を提示したことは当然の成り行きだったのかもしれません。)
 長編になった2巻では、一応のどんでん返しや畳み掛けるような展開を試みた形跡は見られるものの、物語の伏線が粗いせいなのか、取り立てて大きなサプライズを受けることもありませんでした。
 そして、悪意を具現化したかのようなフィクサー的な八雲の父親の存在が今後のシリーズの中で中心に据えられていくのでしょうが、その展開もおそらくはおおかたの読者が予想する通りでしかない可能性は高いでしょう。ですが、そういったある種の大衆娯楽小説としての定式化された陳腐さも、作品の質そのものが大きく下がって悪い意味で「裏切られる」よりは遥かに好感が持てる気はします。
 ただし、今後著者が作家として別作品を書いて行く上では、特に登場人物の個性などの面で、あまりにもステレオタイプで「どこか他で見たような」パターン化から抜け出せなければ、飽きられるのも早い類であるかもしれません。