アーロン・エルキンズ 『古い骨』

古い骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 大切な話があるからと、何十年も会っていないような親族までをも館に呼び集めた老富豪が、モン・サン・ミッシェルで満潮に飲み込まれて命を落とします。その数日後、館の地下から古い白骨が発見され、ちょうど学会に出席するためにフランスを訪れていた、骨の専門家で「スケルトン探偵」の異名を取るギデオン・オリヴァーにこの骨の鑑定が依頼されます。ギデオンはこの白骨を、第二次大戦中に殺された三十代の小柄な成人男性だと断定します。この骨がいったい誰のもので何故この館の地下に隠されていたのか。死んだ老富豪がレジスタンスとして名を馳せていた当時に殺したナチの将校、ナチに処刑されたと言う親族。その真相が明らかになる前に館に招かれていた親戚の一人が毒殺され、事件は一層混迷していきます。

 本作の探偵は、地下室に埋められていた古い骨から、性別・体格・人種・病歴までを推測し、そこからその骨の持ち主に何が起こったのかを解き明かしていく「スケルトン探偵」です。日本での邦訳では本作が第1作ですが、本来は"Fellowship of Fear"(未訳)、『暗い森』(邦訳版では第4作)に続く、シリーズとしては本作『古い骨』は第3作に当たります。
 謎の中心は「誰の死体か」ということに終始焦点が合わせられているわけですが、過去のしがらみから険悪なムードを漂わせる親族たち、そして起こる殺人と、物語は緩急をつけられてテンポ良く進んで行きます。そして物語の展開が進むにつれて、第二次大戦中に起こった出来事と骨が示す被害者の情報が上手い具合に結び付き、スケルトン探偵の思い描く真相に近付いていくかに見えます。
 ですが、そこでそのまま単純に結末へと雪崩れ込まない複雑なプロットこそが、本作の特筆すべきところと言えるでしょう。二転三転する推理、そして探偵自身に迫る危機が、物語に緩急をつけており、終盤でのモン・サン・ミッシェルの満潮に飲み込まれる場面の描写は圧巻です。