三津田信三 『密室の如き籠るもの』

密室の如き籠るもの (講談社ノベルス ミG- 7)
四人の女性の被害者を出した首切り魔事件は、元華族の男が自殺をして幕を閉じます。ですがその男の命日に、供養のために頻繁に現場となった路地を訪れていた彼の婚約者が首を切られて殺されます。これは事件の被害者の、あるいは犯人の引き起こした怪異なのか(『首切の如き裂くもの』)。
行商に訪れた二人の娘のうちの一人が、村境にある「天狗の腰掛」と呼ばれる場所から見える山に家の屋根を見たと言います。ですがその少し前にその場所を見たもう一人の娘はそんな物は見ていないと言います。その場にいた別の行商の男は、それは「マヨヒガ」ではないかと言いますが…(『迷家の如き動くもの』)。
障子や扉の隙間に、幼い頃から自分の知るはずのない光景を何度か見てしまっていた多賀子は、教師となって宿直の見回りをしている際に、ほんの少し開いた教室の扉の隙間鬼のような何かに襲われている校長の姿を見てしまいます。そして悪い噂のある校長が実際に頃されますが、彼女の見た光景は「隙魔」が見せたものだったのか(『隙魔の如き覗くもの』)。
猪丸家に突然現れた記憶喪失の女は、その家の前妻が二人死んでいる場所で狐狗里さんを行なったことをきっかけに、当主の後妻として家に入ることになります。その部屋にある「赤箱」といういわくつきの箱を見るために猪丸家を訪れた刀城言耶の目の前で、密室殺人と思わしき状況が起こりますが…(『密室の如き籠るもの』)。

 怪談や不思議な話を集めて回る怪奇作家の刀城言耶シリーズの、短編三本と中編一本、計四編が収録。
 各編の所々に、これまでのシリーズ作品との時系列的な関わりが出てくるなど、シリーズ読者として楽しめる部分もありますが、同時に短編では怪異譚の面白さと、最後の現実的な落としどころの上手さ、加えてこれらの要素のバランスの良さもあり、小さく纏まっている部分もありますが、総体的にシリーズ未読の読者にも楽しめるであろう作品集となっています。
 『迷家の如き動くもの』では、怪奇譚収集家としての刀城言耶ならではの役割が作中においては非常にスムーズに発揮されており、"マヨヒガ"と"迷家"のエピソードそれ自体も非常に魅力的です。
 『首切の如き裂くもの』、『隙魔の如き覗くもの』の二編においても、物理的なトリックと怪異の果たす役割のバランスが良く、ミステリとホラーの融合という著者の作風が忌憚なく発揮されているように思えます。
 そして、表題作でもある中編は、怪異の度合いは薄めでありながらも、フーダニットでもハウダニットでもなく、ホワイダニットを最終的な問題として置いたことが光る上質の密室ものに仕上がっていると言えるでしょう。
 主に子どもの視点で謎めいた女を描写することで、その不気味さを土台に積み上げた上での結末が綺麗。この落とし方が真相の意外さに繋がっており、ホワイダニットの面白さと説得力を感じることが出来ます。
 「赤箱」にまつわる部分に関してはもう少し突っ込んでも、怪異の面での濃さが出て面白かったのではないかという気はしますが、最後の刀城言耶の「追伸」部分が残す余韻の引きはさすがといったところ。