京極夏彦 『厭な小説』

厭な小説
 馬鹿な上にパワハラとセクハラを繰り返す手の付けられない部長、部長の標的になって腐る同期、鬱で扱いづらい妻。そんなものたちに囲まれる高部が、妻との生活のために購入したマイホームで見かける、幽霊染みた「厭な子供」。至るところに汚物を撒き散らし、しかもその行動がどうやら認知症を装った嫌がらせにしか思えない。そんな「厭な老人」と主婦の君枝との生活。そのホテルに泊まれば幸運を手に出来るという話を聞かされるホームレスの木崎は、「幸福の権利を放棄する」という新見から貰った招待券を持って、そのホテルの特別室の「厭な扉」の前に立ちます。非常識で図々しい後輩から「預かって欲しい」と無理矢理に送りつけられた仏壇にいる、「厭な先祖」の怪異に悩まされる河合。一見して地味目だが大人しく甲斐甲斐しい彼女を持つ郡山。ですが、彼はもうこの彼女が厭で厭で堪りません。郡山が限界を感じる「厭な彼女」。

 ひたすら「不快」の羅列、読み終えて厭ぁな気持ちになる連作短編集。
 どこかユーモラスではありつつも、各編の主人公たちの日常に、これでもかと「厭」を累積させるストーリー展開の末の結末は、当然の如く「厭」なオチ。
 各編の展開といい、起こる怪異じみた出来事といい、またその結末といい、決して独自性に満ちたものというわけではないのでしょうが、読み終えた後にもやもやと残る何とも言えない「厭」さは、最後の一編である『厭な小説』でも、予想通りに「厭」な展開としてつながっていきます。
 読んでいても「厭」、読み終わっても「厭」な、何とも奇妙なエンタメ。
 作中の人物でなくとも、「ああ、厭だ。」と呟きたくなるような1冊でした。