北國浩二 『リバース』 

リバース
 人気タレント似で誰もに羨まれる上野美月と付き合っていた省吾ですが、美月がエリート医師の篠塚に心変わりをしてしまい、省吾は呆気なく振られてしまいます。そして、彼女を諦めきれない省吾の前に、美月が新たに付き合い始めた男に殺されそうになっているかのような幻視を、未来を見ることの出来る少女であるすみれが見たのだと知り、衝撃を受けます。不吉な予言を変えるために、省吾は美月と篠塚を監視し始めますが、そんな彼に対して周囲は冷ややかな視線を向けるようになります。

 主人公が、ファッションリーダーの人気タレント似の元彼女に対して激しい執着を見せる、ある種近視眼的なキャラクターとして描かれる前半部と、終盤で鋭い直感と洞察力を働かせて事件の真相を暴く姿には、良い意味でギャップがあり、そのことが本作を独特な持ち味のある作品にしている一因になっているように思います。
 ですが、主人公の省吾が、何故そこまで美月に一途になるのかという部分では、美月というキャラクターに終始魅力が薄いために、読者が省吾に共感するに至れない部分はあるような気もします。それは、どこか一歩置いて冷静な著者の文章で綴られる美月の姿は、省吾のそれよりも客観的な視点でとらえられるものであり、序盤から美月という人間の薄っぺらさや身勝手さが伝わってしまうがためのものなのかもしれません。
 そんな前半部のなかでも、ひたすらうだつの上がらない上に、自分を捨てた彼女に縋る未練たらしいだけの男として描かれるにも関わらず、省吾の一途さは、方向性にこそ共感はもてないものの、その信念と意志の強さには心が動かされる部分も少なくありません。
 そして終盤、省吾のその一途さと強い信念のもとに暴かれる事件の真相は、二段、三段の構えで物語に深みを与えることに成功していると言えるでしょう。
 結末部において全ての真相が明らかになった後、タイトルの「リバース」に、いくつものひっくり返された真相、物事の裏側を表す"reverse"のみならず、再生を意味する"Rebirth"という言葉もまた多重的に浮かび上がる、物語そのものの良さが印象的でした。