J・D・ロブ 『幼子は悲しみの波間に イヴ&ローク21』 ヴィレッジブックス

幼子は悲しみの波間に イヴ&ローク21 (ヴィレッジブックス)

 夜中に飲み物を飲むため、階下にこっそりと降りたがため、9歳の少女ニクシーは家族の喉を切り裂いて行った殺人犯たちの魔の手を逃れます。ですが、犯罪の証人となってしまった彼女は心に深い傷を負います。現場捜査中にニクシーを発見したイブは、彼女を児童保護組織の手に委ねることが出来ず、自宅で保護することにしますが……。

 物語の冒頭から、犯人は行動に一切の無駄のない、特殊な訓練を受けたプロフェッショナルであることを匂わせられます。
 そして、特に大きなトラブルを抱えていた様子のない被害者たちは何故殺されたのかというのが、本作における一番核となる謎となります。その一方で本作の重要なテーマは「家族」であり、その生い立ちから「普通の家族」の姿を知らないイブとロークの戸惑いと、「普通の家族」に囲まれた環境から一変して過酷な事件の中心に位置することになった少女の姿が、綺麗なコントラストを見せているといえるでしょう。
 これらの要素が過不足なく絡み合い、事件とともに複雑な心の機微が読者に対して展開されることで、本作はバランスの良い作品となっています。
 本作はシリーズ他作品と比べれば、若干犯人側の心理への踏み込みの面では浅いと感じられる部分はあるかもしれません。ですが、「家族」というテーマをイブとローク、被害者の少女、犯人を取り巻く者たち、さらには過去作品に登場した一家など、多角的な方面からのアプローチで描き出しているという部分では、実に上手い手法を取れたとも言えるでしょう。