ジェフリー・ディーヴァー 『クリスマス・プレゼント』

クリスマス・プレゼント (文春文庫)
 "Twisted"の原題を表すように、それぞれ小気味の良い捻りの効いた16篇が収録された短篇集。表題になっている1篇『クリスマス・プレゼント』は、リンカーン・ライムシリーズ初の短篇であり、クリスマスに「母が行方不明になった」とライムの元を訪れた少女の依頼を受けたことで明らかになる事件の顛末を描いた作品。

 長編のリンカーン・ライムものでは、どこまでも狡猾な敵の書き込みと、その犯人との知を尽くした駆け引き、急展開に次ぐ急展開、鮮やかなどんでん返しなど、息をもつかせぬ展開で楽しませてくれる著者の、現在のところ唯一の短篇集。
 これまで著者の発表してきた長編においては、勧善懲悪の構図は明らかであり、犯罪者との知力を尽くした攻防の末に正義が勝利するのですが、短篇においてはそうした縛りがなく、純粋に「捻り」の演出を堪能させるものとなっていると言えるでしょう。
 全16篇、いずれも結末を予測させる暇も与えずに作品世界に引き込み、真相が明らかにされる結末に至ると、それまで見えていた絵がガラリと変わる鮮やかさに満ちたものとなっています。
 結末に用意される静かなサプライズへの予測や、総じてその傾向を見ることは出来るものの、登場人物の心情に引き込む上手さによって、読者は結末の予測という単調な読み方をせずに物語を堪能できるものとなっていると言えるでしょう。
 これらの優れた持ち味は、は特定の一篇に限ったことではなく、収録作品の全てにおいて発揮されており、まさに珠玉の短篇集。