ロバート・A・ハインライン 『夏への扉 新訳版』

夏への扉[新訳版]
 1970年、恋人だと思っていた女性と友人だった共同経営者に裏切られた発明家のダン(ダニエル)は、失意の中一計を案じて愛猫のピートとともに30年間のコールドスリープに入る契約を、保険会社と結びます。ですが、自分を裏切った元婚約者と友人のもとへと向かったダンには、更なる悲劇が襲い掛かります。

 作中で描かれる「30年後の未来」すらも現実では過去になってしまったものの、新訳によって新たな生命を吹き込まれた本作には、古臭さはまるで感じられず、むしろノスタルジックな美しさと温かな情感に満ちて、今の時代に新鮮なものとなって甦ったと言えるでしょう。
 本作では、物語が進むにつれて徐々に克明になってくる、恋人だと思っていた女性と共同経営者からの手ひどい裏切り、そして目覚めて予想を大きく超えた30年後の未来、そしてそこで見つける希望と人への信頼が、猫のピートとダンの洒脱で軽妙な会話(?)を交えて豊かな情感をもって描かれます。
 現実では、作品内で描かれる「未来」を随分と過ぎ、おそらくはかつて思い描いていた明るさがまるでない現在になってしまったからこそ、未来への希望の貴重さを再認識させてくれる作品であるのかもしれません。