石崎幸二 『記録の中の殺人』

記録の中の殺人 (講談社ノベルス)

 遺体の一部を切断された5人の女子高生の遺体が発見されたことから始まった、連続殺人犯「ミキサー」による事件の影響で、女子高生を子どもに持つ親や学校関係者らは、神経を尖らせます。ミリアとユリと仁美、そしてミステリー研究会の顧問の石崎は、「ミキサー」に狙われることを危惧した親によって孤島の別荘に避難した仁美の知り合いの天羽結花をたずねることになります。ゲストとなったミステリー研究会の面々が、被害者となった女子高生たちの共通点について推理を巡らせながらいつもと変わらずにお気楽に過ごす中で、突然結花が姿を消してしまいます。

 女子高生コンビのミリアとユリに加え、仁美を加えたミステリー研究会のメンバーと石崎との掛け合い漫才のボリュームがやや多い気もしましたが、シリーズ読者にはこのユルさもまた楽しみであることを思えば、これはこれという面もあるのでしょう。
 そして、序盤では石崎らが直接事件の起こる渦中に身を置くまでの段階が長いような気にもさせられますが、実はここで語られる「ミキサー」事件についての内容が、終盤で重要な要素となって生きてくることになります。本作は、漏れ伝わる情報からのみ、あくまでも第三者的に推理を繰り広げる「ミキサー」による連続殺人事件についての記述が、物語において必然性をもってくる構成が見事な作品と言えるでしょう。
 そして、謎が解明されて明らかになる犯人の動機の異常性・独自性は際立っている一作ともなっています。動機面は、そこだけを取り上げればおよそ現実的とは言えない面もありますが、犯罪における人間によるドラマ性よりも本格ミステリのゲーム性を前面に打ち出し、物語中においての推理と議論の積み上げがなされることで、作中の議論における異常な動機のリアリティや必然性、齟齬のなさは一応の確立を見ているように思います。