湊かなえ 『花の鎖』

花の鎖

 職を失った上に祖母が入院し、家に毎年届く花束の差出人「K」に対して、以前母親が亡くなった際に断った経済的な援助を頼むことを決意する梨花。好意を持っていた男性とお見合いで結婚することが出来たものの、二人の見合いをお膳立てした叔父夫婦のもとに彼らの息子が帰ってきたことで、運命が一変する美雪とその夫になった男性。学生時代に酷い別れをすることになったかつての恋人と結婚した女友達から、頼みがあるので会いたいという手紙を貰った紗月。彼女ら三人の物語は、やがてひとつに収束していきます。

 デビュー作以来ずっと、手紙や証言という形でもって、多面的な視点の積み重ねと広がりを描くことで「真実」の姿を徐々に明らかにするという手法を多用してきた著者ですが、本作では一転して3人の女性の物語を同時に進行させ、それを終盤で一気に収束させることで読者にサプライズを与えようという、新たな試みをしています。物語中盤くらいになると、あるいは勘の良い読者には三つの物語の繋がりやその構造がおぼろげに見えてくる可能性も高いですし、従来の作品に比べればリーダビリティもやや失速した面も皆無ではありませんが、本作における試みはひとつの成果として評価されるものと思われます。
 物語そのものについては、『告白』以来割とセンセーショナルさを前面に出して読者を一気にひきつけ、結末にはある種の苦さや突き放した冷酷さすらを含んでいる作品が多かったのに対し、本作では読後感はむしろ清々しさを感じるようなものになっています。本作においては、まず3人の女性たちの「現状」があり、それがどうしてもたらされたのか、そして彼女らの物語の行く末へとそれぞれが同時進行で語られ、さらに最終的に収束した物語において全ての結末に行き着くという構造を取っています。その過程では当然、登場人物たちの秘められた憎悪や後悔、それぞれの身勝手さなども浮き彫りにされるものの、最終的にその全てが昇華されるような結末がもたらされること、またその結末の必然性がしっかりと見えることが非常に良い読後感をもたらしているのかもしれません。
 「雪月花」を各パートのタイトルに振り当てた意図も実に明確で、著者がまたひとつ新しい領域に入った作品と言えるでしょう。