乾くるみ 『六つの手掛り』

六つの手掛り (双葉文庫)
 タクシーと車の事故のせいで立ち往生し、それぞれに乗っていた合計4人が飽く点に見舞われて泊めてもらった家で、翌朝死体となって一人が発見される『六つの玉』。誕生日に五人の男性から贈られたプレゼントの一つによって爆殺させられた女性。容疑者とされていた男は、同じように爆弾によって死んでいたという過去の事件の真相が語られる『五つのプレゼント』。大学の研究室にたまたま訪れて、即興でカードの「透視」を披露した外国人が殺されたのは何故なのか。そしてカードが散らばる中で発見される死体が意味するものが何であるのかを解き明かす『四枚のカード』。旅行先で知り合った相手から、その時の写真が同封された手紙が届いたものの、肝心の写真が一緒に行った友人のものと入れ間違えられていたことが、留守電に残されたメッセージで分かります。ですが翌朝、その留守電を残した友人が殺されたという知らせがもたらされます。犯人の仕掛けた工作を解く『三通の手紙』。虎の絵と美人画が二幅の対になっている、一緒に飾ると不吉なことが起こるという曰くつきの作品は、「二枚舌の掛け軸」として、通常とは異なる形の掛け軸として仕立てて飾られていました。この「二枚舌の掛け軸」が飾られた部屋で殺人が起こりますが、周り中飛び散った血で汚れていたにもかかわらず、何故か表になっていた側の絵には血痕がありませんでした。この一対の掛け軸から犯人を浮かび上がらせる『二枚舌の掛け軸』。読みかけの本が伏せられていたページ数から、被害者が読書をしていた時間を割り出し、そこから犯行時刻を割り出そうとする『一巻の終わり』。

 どこまでもロジックだけでフーダニット、ハウダニットを解明することに主眼を置いた短編集。そのために物語そのものにはさほど重点が置かれていない感じはありますが、かつてはマジシャンだったという小太りのチャップリンのような容貌の探偵役も、実に探偵役らしい個性を持った魅力的な探偵として存在感を持っており、純粋なパズラーものとしては非常に高い完成度を持った作品集となっています。
 犯人の動機という部分については必ずしも十分に説明されていない部分もありますが、純粋な犯人探しやトリック解明を、あくまでもロジックのみに置いて行うという主題のもとに作られた物語であるがゆえに、それを瑕疵とするには当たらないでしょう。
 『六つの玉』から始まり『一巻の終わり』で終わるという、各編のタイトルに含まれる数字が減っていくという構成の遊びや、末尾の『一巻の終わり』の最後の1頁によって現実の読者と物語世界が一気に接近する仕掛けも含め、遊び心満載の技巧の楽しさを味わえる1冊。