荻原規子 『RDG5 レッドデータガール 学園の一番長い日』

RDG5  レッドデータガール  学園の一番長い日 (カドカワ銀のさじシリーズ)

 戦国時代をテーマとした学園祭が開幕し、その裏では高柳が率いる陰陽師一派と、宗田真響らの一派とが、罠を仕掛け、それぞれ相手を迎え討つための準備を進めます。そんな中で、衣装合わせの時に髪を解いて姫装束を身に付けた泉水子へが与える印象は一変して、彼女は周囲の変化に戸惑います。そして高柳たちの仕掛けの影響で、学園の中で起こる怪奇現象じみた異変を調べる中で、真響と真夏、そして戸隠の神霊である真澄との三人の関係の変化が、泉水子にも波及します。

 前巻くらいから泉水子が変わり始め、この巻では深行が自身の立ち位置を決めるという、ターニングポイントになる巻。同時に、彼らの周りの登場人物たちも、否応なく自身らが変わることを自覚し、本書では更に大きく物語が動く前哨戦が展開されていると言っても良いでしょう。
 神霊の姫神を挟んだ泉水子と深行との関係、そして真響たち三つ子の間の関係の変化は、互いに影響しあい、本書の結末においてこれまで曖昧な立場をとり続けてきた深行に大きな決断を促します。
 そして、山奥で俗世とは隔絶されたような環境で周囲に守られ育てられたゆえに、のびやかである半面、のんびりと生きてきた泉水子の成長は、これまではそのまま物語の緩やかなテンポであったということができるでしょう。ですが、ここに至り姫神と泉水子自身の関係が明らかになる中で、泉水子を含めた登場人物たちが大きな変化に見舞われ、それに伴って物語の速度も変わり始めます。今後の展開に一層期待が高まり、物語の佳境がやってくるのが目前であることが暗示される結末でした。