高殿円 『カーリー1 黄金の尖塔の国とあひると小公女』

カーリー <1.黄金の尖塔の国とあひると小公女> (講談社文庫)

 実の母親の問題ゆえに、父親やその後妻と上手くやれずにいたシャーロットは、父親の仕事の都合で植民地インドにあるイギリス人の子女を教育する寄宿学校へ放り込まれてしまいます。前時代的で馬鹿馬鹿しい階級制度を笠に着たクラスメイトやその取り巻き、高圧的で理不尽な学院長の押し付けてくるものに対し、納得できないでいたシャーロットは学院の中で孤立してしまいます。ですが、寄宿舎で同室のカーリーという不思議な少女がシャーロットを支えてくれることで、彼女は次第にこの出会いに感謝をするようになります。ですが、インドではイギリスからの独立運動へ向けた気運が芽生え始め、ヨーロッパではヒトラースターリンが不穏な動きを見せる中、シャーロットたちを取り巻く情勢も変化の兆しを見せ始めます。そして、不思議な魅力を持つカーリーの本当の姿とは…。

 世界が第二次大戦への不穏な動きを見せる中、否応なくその渦に飲み込まれようとする少女の物語。
 序盤の、どこか児童文学を思わせるような空気を持つ作品世界は、読み進めるに従って実は壮大な歴史を背景に置いた骨太な物語であることが明らかになります。その中で、それぞれ出自に秘密を抱えるカーリーとシャーロットの間で、二人だけの強い絆が生まれ育つことになります。
 そして本作では、クラスメイトの間に君臨する女王様然とした少女や、厳格な学院長など、まるでバーネットの『小公女』を思わせるようなあれこれが、何故かとても幸せな青春の1ページのように感じられる部分があります。それは、この先シャーロットやカーリーには、学院で過ごしたこの第1巻の時間が、「幸せな思い出」となってしまうような未来が訪れることが必然となる、歴史的な背景が存在しているからなのでしょう。
 二人の素性をおぼろげながら知る読者には、彼らを待つ未来は、否応のない別れであることが予感されますが、それを超えた先に続くものを期待させる物語であると言えるでしょう。
 その意味では桜庭一樹のGOSHICKシリーズと方向性は同じものなのかもしれませんが、本作の方がより現実の歴史との距離の近い物語であると言うことは出来るでしょう。先に完結したGOSHICKでもいずれ来る別れの時が暗示され、そこで読者が感じたのと同じように、本作でもこの先に待っている世界を巻き込んだ戦争の末に、主人公たち二人が「ずっといっしょに」いられる結末があって欲しいと願わされます。