主任検死官のモリスと交際していた女性警官が自宅近くで殺害される事件が起こります。親しい間柄であるモリスを気遣いながらも、この事件を担当することになったイブは、やがて被害者がかつて自分の逮捕し、夫のロークとの因縁もある希代の犯罪者の息子と付き合いがあったことを探り出します。
シリーズ29作目となる本作では、イブとロークの夫婦と同じ立場のカップルでありながらも、違う選択をしたために別れを選んだ二人が登場します。この二組のカップルそれぞれの選択の違いは非常に対比的であり、シリーズを着実に重ねることで互いの信頼を確固たるものにしてきた29作目だからこその作品であったと言うこともできるでしょう。
本作は、主人公二人の生い立ちに絡む相手が深く関わる事件であり、これまでのシリーズの中でも過去の因縁の深い事件に分類される一作となっています。犯人との対決に至るまでの運びの上手さや、シリーズならではのお楽しみ要素で緩急をつけた展開など、本作もまた読者をひきつけて500ページ超のボリュームを中だるみせずに読ませる作品となっており、安定感のある手慣れたストーリーテリングを見ることのできる物語であると言えるでしょう。