エラリー・クイーン 『フランス白粉の謎【新訳版】』

フランス白粉の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

 ニューヨークのフレンチズ・デパートの催事を行っているショーウィンドウで、銃殺された女性の遺体が発見され、発見された遺体が、フレンチズ・デパートの会長夫人であるマリオンであることが判明します。父親のクイーン警視とともに現場に訪れたエラリーは、あるべき出血量が現場に見当たらないこと、そして夫人のハンドバックに入っていた口紅が夫人のものではないことに気付き、遺体発見現場と殺害現場が別である可能性に思い至ります。

 新訳版ということで再読(以前に読んだのはハヤカワ文庫版なので、タイトルは『フランス白粉の秘密』)。かつて読んだ作品の雰囲気にそのまま、スムーズに入り込めた1冊。久々に味わう「読者への挑戦状」でのワクワク感と、列挙された条件に従って消去法でしっかり犯人に辿り着けるという謎解きの快感は、再読でも存分に味わえました。
 本来であればベテラン警察官であるリチャード・クイーン警視が当然気付いているべきことに気付かずエラリーに指摘される場面などは、今読むと首を傾げないでもないですが、何故遺体発見現場が殺害現場ではないのかということにはじまり、犯人が誰であるのかという最終的な結末まで、終始フェアで明快な論理で示される推理の過程の端整さは、やはり古典名作の名に相応しい一作と言えるでしょう。