岡崎琢磨 『珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る』

珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る (宝島社文庫)
 京都の街なかにひっそりと佇む「珈琲店タレーラン」のバリスタの美星の妹の美空が、休みを利用して京都へとやってきます。行動的で活発な美空に振り回されることになる美星と青山ですが、美空が京都へやってきた事情の裏側には、彼女たちと幼いころに別れた父親のことが絡んでいるらしいことが分かってきます。

 「珈琲店タレーラン」の女性バリスタの美星が、その聡明な頭脳で訪れる人が持ち込む謎を鮮やかに解き明かすシリーズ第2弾。
 明晰すぎる頭脳ゆえに人の心の裏側まで暴いてしまうことにトラウマを抱いていた美星ですが、前作の終盤で迎えた展開を乗り越え、相変わらず微妙な関係のままの青年アオヤマとともに、持ち込まれる事件を本作でも鮮やかに解き明かしていきます。
 美星の友人の姉が別れた恋人から送られた手紙の日付の謎。妹の美空が伏見稲荷で撮ったスマートフォンの写真に写った少年が、ほぼ時間差がないと思われる時刻に京都駅付近にいた美星と青山に目撃された不思議。失恋した女子高生が自分を振った男とその彼女となった部活仲間を見返すために始めたラテ・アートの顛末。「タレーラン」を取材しに来たというライターと、何年も前に盗作疑惑を掛けられたことで消えていったミステリ作家。美空の友人の一人が、突然書置きを残して失踪した際の部屋の鍵の謎。そして「会わせたい人がいる」と言って待ち合わせの約束をしていた美空が誘拐されてしまう事件。アオヤマや「タレーラン」のオーナー藻川らとともに、美星がこれらの謎や事件を解き明かしていきます。
 そして本書は主に、何か目的があって京都へとやってきたらしい美星の妹の美空と、彼女ら姉妹の父親の存在が、各編をつなぐ役割を果たしています。最後の二編で描かれる美空の誘拐事件以外では、それぞれが独立した物語としても成立しています。ですが、その末尾に謎の男のモノローグが挿入されることで、すべての短編がひとつながりの物語の断片であるという志向性を最初の段階から示しています。男の正体については、割と早い段階で仄めかされることとなりますが、この男と美空という二人の存在によって、本書は連作短編集としての体をなしていると言えるでしょう。
 勿論、各編のあちらこちらに、結末部へとつながる伏線は本作においても巧妙に張り巡らされており、第一章の顛末からすべてが一連のつながりを持っていたことが明らかになる結末部、またその結末部を前にして読者をも愕然とさせるミスリーディングなど、本作は非常に巧妙な仕掛けをも楽しめる作品となっています。
 コーヒーの苦さと重ね合わせるような、前作のような大仕掛けはないものの、本書もシリーズとしての安定感を見せる一作と言えるでしょう。