神林長平 『敵は海賊・海賊の敵 RAJENDRA REPORT』

敵は海賊・海賊の敵 (ハヤカワ文庫JA)
 火星に降り立ち、伝説の海賊・匋冥の前に現れた青年ポワナ。そして海賊課にはポワナの姉で、フィラールの聖剣を振るうことが出来る唯一の存在であるサフラン・メートフが弟を探して欲しいという依頼を持ちかけてきます。ポワナが入信していた、フィラールの新興宗教である匋冥教をめぐり、海賊・匋冥は自らを騙るその宗教を消し去ることを決め、海賊課のラテル・チームのラテル、猫型宇宙人のアプロ、対人知性体のフリゲート艦・ラジェンドラは事件に見え隠れする海賊・匋冥を追うためにフィラールへと向かいます。匋冥神を崇める匋冥教と現実に存在する伝説の海賊・匋冥の。そして、かつて匋冥との関わりがあったシャルファフィンと匋冥。さらには海賊・匋冥に憧れを抱き自らも海賊になりたいという見当違いな青年ポワナ。彼らの「物語」の顛末を、ラジェンドラがその視点でレポートとして再現する物語。

 久々の「適は海賊」シリーズ。第一作『敵は海賊海賊版』に登場したフィラールのシャルファフィンが再登場し、匋冥と再び関わることになります。
 本作では、"RAJENDRA REPORT"という副題が示すように、対人知性体のフリゲート艦であるラジェンドラが物語を綴るという形式がとられています。そしてその内容はと言うと、ラジェンドラをはじめとする海賊課のラテルたちが中心というよりは、宗教という人間の抱く幻想=物語を消し去る海賊・匋冥を描いたものといえるでしょう。
 本シリーズにおいてラジェンドラという存在は、「知性体」ではあってもそこで描かれる「人格」とでも言うべきものは決して本質ではなく、あくまでも機械的な「システム」であると言えるでしょう。それがゆえに、人間が必要とする幻想=物語を、「リアル」な世界から俯瞰的に見ることが出来ます。
 そんなラジェンドラによってリポートされる、幻想=物語、ひいては「神」を否定する匋冥の存在感がやはり圧巻な一作。
 シリーズ初期と比べればやや小粒な印象も受けますが、テーマの扱い方や魅力的なキャラクターなど、「適は海賊」らしい一作であることに変わりはないでしょう。