似鳥鶏 『午後からはワニ日和』

午後からはワニ日和 (文春文庫)
飼育員の桃本が勤める動物園で、「怪盗ソロモン」の署名とともにイリエワニが盗難される事件が起こります。犯人は危険なワニをどうやって盗んだのか。また、他に希少価値の高い爬虫類がいる中で、何故イリエワニが盗まれたのか。そんな中、動物園のアイドルである「ふれあい広場」担当の七森が何か悩んでいるような様子に気付いた桃は、彼女が事件に関与しているのではないかという疑念を抱きます。

ヲタク飼育員の服部や、可愛いのにどこかズレている七森さん、ツンデレ女医の鴇など、個性的な登場人物が繰り広げる動物園ライフという部分だけでもそれなりに楽しめるところに加え、誰が・何故、動物園の動物を盗み出したのかという謎が、ユーモラスを交えながら描かれる一作。
ミステリ的な部分においては、その動機でその犯行をしないでも・・・と思わないでもない部分はあるものの、意表を突いたホワイダニットが明らかにされる結末部分は、動物園という作品舞台だからこそのものとなっています。
さらには、ゆるゆるのユーモアで包まれながらも動物と人間の関わりについてなど、読み応えのあるテーマをリーダビリティの高い物語で読ませるなど、結果的に非常に個性的な作品に仕立て上げていると言えます。