死者を見てしまうことで学校へ行きたくない高校生のスミレは、ある日彼女の父親の不倫の現場を目にしてしまいます。そして、父と交際しているらしい女性の後を追って入った「ゲルマ電氣館」というレトロな映画館で、映像技師の有働に一目惚れをしたスミレは、この不思議な映画館でアルバイトを始めます。ですが、秘密めいたある晩のレイトショーで上演される、死者をあの世へと送るための「走馬灯」のフィルムの一部が何者かによって盗まれる事件が起こってしまいます。スミレはゲルマ電氣館のオーナーを慕う幽霊の真理子さんとともに、消えたフィルムの謎を追うことになりますが、学校へ行けなくなった原因のクラスメイトも、何故かスミレにつきまとってきます。
『幻想郵便局』とは一応独立した作品となりますが、前作で登場した幽霊の真理子さんが本作では重要な人物として登場しますし、郵便局の存在も少しだけ、作中で描かれることとなります。チラホラと、前作『幻想郵便局』との繋がりが見え隠れするのも読者にとっては楽しい一作。
その一方で、『幻想郵便局』で描かれていた「死」そのものへの言及は本作では薄く、代わりに幽霊となってこの世に執着し続ける人間の弱さや孤独というものを、ホラーからアプローチしている側面が指摘できるかもしれません。勿論、著者の作風ゆえに直接的な「怖さ」はさほど感じないものの、孤独ゆえに人を殺すほどの情念の怖さが、やわらかな作品世界の中で強いスパイスとなっていると言えるでしょう。
