高殿円 『トッカン 特別国税徴収官』

トッカン―特別国税徴収官― (ハヤカワ文庫JA)
 滞納者から税金を取り立てる徴収官。中でも悪質なケースにあたる、国税局(本店)から来ている特別国税徴収官こと「特官」付になった新米の徴収官の「ぐー子」こと鈴宮は、彼女の上司である鏡の横暴さに振り回されることになります。巧妙に売り上げを誤魔化して税金逃れをしていることが疑われるカフェのカラクリを暴き、のらりくらりと調査をかわす銀座のママをする女性を追い詰める鏡の手腕を見せつけられる傍ら、鈴宮自身ものっぴきならない罠に陥ります。

 序盤から当然のように盛り込まれる専門用語、主人公らのカタくてあまり良い気持ちのするはずのない仕事など、普通であれば退屈に感じる物語になってしまいそうな要素があるにもかかわらず、とことん良質のお仕事エンタメ小説に仕立て上げたとも言える一作。
 そしてまた本作は、家庭の事情ゆえに父親に対しても自分自身の出自に関してもわだかまりを持っている鈴宮が、自身の仕事をする上での自覚をしていく成長物語でもあります。
 物語序盤は、悪質な滞納者を思いもよらないほどに強硬で破天荒な方法でやり込めたり、所得隠しを暴いたりと、コミカルで痛快な要素が前面に出ます。ですが中盤以降は、仕掛けられた罠にはまって失態を演じてしまった鈴宮がどん底まで落ちて、自らのコンプレックスであった過去と向き合い、職業人としての自分の今後の在り方に目を向けるという彼女自身の成長に力点が移ります。
 税金というものを払う側の様々な人間模様、そして取り立てる側の視点など、かなり硬いガジェットでもって、鈴宮の根深い過去によって形成された孤独とコンプレックスと向き合う姿という、やはり重いテーマを軽妙に描いた良作。