綾辻行人 『Another エピソード S』

Another エピソード S (単行本)
 かつて夜見山北中学の三年三組で起こった悲劇の生き残りである賢木晃也は、独り住む家で自分が「死んだ」ことを自覚します。階段の二階から転落して死んだ際に、誰かが一緒にいたこと。そして何者かによって自分の死が隠ぺいされたことを理解した「幽霊」の彼は、家を訪れた見崎鳴とともに、「自身の死」の真相と隠された死体を探し始めます。『Another』のヒロイン見崎鳴によって語られる、あの夏の裏側にあったもうひとつの物語。

 様々にメディアミックスされた『Another』の続編的な扱いになる一作。
 前作を未読でもそれなりに楽しめるつくりにはなっていますが、『Another』のヒロインである見崎鳴が本作でもヒロインを継承していることに加え、「夜見山北中学の三年三組」で代々起こる怪異が物語の背景を形成する一因にあるので、前作を読んでいた方がラストの余韻を含め楽しめるのは確かでしょう。
 記憶喪失の幽霊による、その死の真相と死体を探す物語として展開する本作では、作品の中心には常に「賢木晃也の死」がありますが、『Another』で描かれていたような「怖さ」を感じることはありません。個人的にはホラーとしての「怖さ」が薄いのはやや残念ですが、見崎鳴というヒロインがより一層クローズアップされており、作品世界の独特な雰囲気の良さがあるという部分で、前作『Anather』そのものを補完する世界が本書で構築されているのは確かでしょう。
 作品そのものは、得体の知れないものに対する恐怖感に満ちていた『Another』とも、また著者の本格ミステリ系の一連の作品とも異なっていますが、過去の記憶の中の会話や情景が繰り返し挿入される手法などを含め、『緋色の囁き』にはじまる囁きシリーズの雰囲気に通じるものがある洋にも思います。
 ある程度慣れた読者には主要な仕掛けはバレバレでしょうが、『Another』という作品世界の補完と同時に、「終わらない呪い」を思わせ次回作を期待させる一作となっています。