畠中恵 『すえずえ』

すえずえ
現在和菓子職人として修業中の幼馴染、栄吉が見合いをしたという話を長崎屋の病弱な若だんなの一太郎は聞きつけますが、何やら複雑な事情が背景にあるらしい栄吉の縁談の結末とは(『栄吉の来年』)。
妖(あやかし)を封じる力を持つ江戸の名刹広徳寺の寛朝のもとへ、小田原で二人の僧侶が食われたという話が届きますが、どうもこの話自体に何ものかの思惑が働いているようで…(『寛朝の明日』)。
長崎屋の主人の藤兵衛が上方へと出向いている時、上方から来た赤酢屋が、藤兵衛に預けた荷が届かないことへの賠償で、店の身代を寄越せと言ってきます。いつもは病弱で寝込む若だんなは何が起こっているのかを知るために上方へと赴き、藤兵衛の妻で若旦那の母であるおたえが江戸に残って事態の収拾にあたることになります(おたえの、とこしえ)。
ひょんなことで長崎屋の若だんなの一太郎が、優良な婿がね候補として人気となり、幾つもの縁談が持ち込まれることになってしまいます。若だんなが結婚することになれば、今までのようには一緒に過ごすことが難しい妖たちはどうなるのか(『仁吉と佐助の千年』)。
長屋に暮らすことになった貧乏神の金次、猫又のおしろ、獏の馬久の三人と、長崎屋の若だんなのところへ出入りしている妖たち。ですが、若だんなから貰った祝いの火鉢をはじめ、様々なものが盗まれてしまう事件が起こります(『妖たちの来月』)。

 シリーズ13作目、幼馴染の栄吉の見合いを端緒に、様々なことが変わっていく「未来」を描いた連作短編集。
 本作で若だんなは、自分の知らぬところで栄吉の縁談が進んでいたことに寂しさを覚えたり、また若だんな自身の縁談が持ち上がったことで、妖たちが若だんなと共に過ごせる時間がこの先どれだけ続いていくかを選択しなければならなかったりと、不確定な未来へと、それぞれが思いを馳せることになります。
 それぞれが、落ち着くべきところへと落ち着いたという印象の一作でした。