似鳥鶏 『迷いアルパカ拾いました』

迷いアルパカ拾いました (文春文庫)
 楓ヶ岡動物園の飼育員である桃元は、同僚の七森とともにどこからか迷い込んだアルパカを保護してしまいます。近隣の動物園や施設でアルパカが脱走したという話もなく、またニュースになっても持ち主が現れないアルパカは、どこから現れたのか。さらには七森の学生時代の友人が失踪し、その背後に何やら犯罪の気配が漂います。後輩の飼育員の服部や、女性獣医師の鴇も交え、七森の友人の行方を探すことになりますが……。
 動物園シリーズ3作目。
 本作でも、登場する動物や、破天荒だったり飄々としていたりする個性豊かな登場人物たちの軽妙な掛け合いを楽しめ、ユーモラスな展開を見せる一方、前作までもそうであったように、事件そのものは欲得にまみれた人間の身勝手さが背景にあり、実にシビアです。
 犯人が弄したトリックは現代的なガジェットを上手く取り入れていると言えますが、やや安直な手段という感じは皆無ではなく、その犯人が疑われることになれば、トリックについては即バレの可能性がある気もします。また、失踪した七森の友人が、何故事件のことを警察なり誰か他の人になり、もっと相談できていなかったのかという点も引っかからないでもない感じはあります。
 ですが、結末へと着地するための伏線はこの物語ならではという良さがありますし、最後の決着の付け方が実に痛快で綺麗に決まっており、上質のエンターテインメントとなっているのも事実でしょう。