三津田信三 『誰かの家』

誰かの家 (講談社ノベルス)

会社の仲間と登山をして、「何か」がついてくるような恐怖感を覚えた後、宿泊したバンガローで一緒になった高木という男から、かつて高校生だった高木が海辺で体験した恐怖の一夜の話を聞かされます(『つれていくもの』)。
親の事情で父親の実家に引っ越すことになった少年。祖父母に遠慮して息をひそめるように生活しなければならなかった彼は、「あとあとさん」という架空の存在を想像して創り出します。ですが、古い家の中で何故か本当に「あとあとさん」が存在しているかのような不可解な出来事が起こり始め…(『あとあとさん』)。
小学校時代に少しだけ付き合いのあった友人の鴻本。彼が語ったのは、裕福だった鴻本家の蔵で見つけた、何故か鴻本一家と符合する不気味なドールハウスにまつわる怪異でした(『ドールハウスの怪』)。
肩を壊したために山奥の一軒宿の湯治場に滞在することになった作家。そこで出会った女性は一人で来ているようなのに、何故か彼女と過ごすと男性の声が時折聞こえてきます(『湯治場の客』)。
不倫の果てに子供を身籠った途端、相手の男性が疎遠になった女性。彼女は男性の妻さえいなければと、子供の頃祖母に聞いた「お塚様参り」という呪法の話を思い出します(『お塚様参り』)。
不良少年だった時代のあるヤスシは、当時家出をして金が底をついた時、不良仲間の一人だったカメイといういけ好かない少年から空き巣を持ちかけられます。何やら不気味な趣のあるカメイが探してきた家に侵入したヤスシが見たものとは(『誰かの家』)。

 家や特定の建物を舞台とした6編の怪談。
 得体のしれない何かが潜んでいる気配、やがてそれが徐々に迫ってくる恐怖という題材は、著者が得意とするだけに、本書に収録された6編は、「怪談」としての愉しみに満ちたものになっています。
 おぞましい何かが棲む「場」を構築することに力を注ぐだけのボリュームのある長編とは異なり、恐怖の質はややアッサリめとも言える感はありますが、それだけにそこで起こった出来事の「理由」や「正体」の不可解さは大きく、それゆえに本書は純然たる「怪談」としての物語となっていると言えるでしょう。
 直球の怖さというよりは、薄気味の悪さと、良い意味ですっきりとしない後味が残る作品集。