ダヴィド・ラーゲルクランツ 『ミレニアム4』上下

ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (下)

 大企業の腐敗や国家の暗部を暴き続けてきた雑誌「ミレニアム」の記者ミカエルですが、最近の彼に対する世間の風潮は「時代遅れ」という冷ややかなものになり、「ミレニアム」の経営にもミカエルに対し思惑のある大衆メディア資本をバックに持つ人物が関わってきます。そんな中でこのところスクープにも恵まれていなかったミカエルのもとに、人工知能の世界的学者の研究がハッキングされて盗まれていたという情報が入ります。情報提供者の話から、この件にかつての盟友リスベット・サランデルが絡んでいることを知ったミカエルは、件の研究者のフランス・バルデル教授に会うことになりますが、バルデル教授を狙う何者かが現れてきて・・・・・。

 ミレニアムシリーズの原作者スティーグ・ラーソンの急逝により、10作まで予定されていたシリーズが今後続くことが無いことを残念に思っていただけに、新たな書き手を得てシリーズが再開されたとのニュースは嬉しさ半分、不安半分といったところでした。
 当然、この人気作を受け継いだラーゲルクランツの努力や力量により、既刊三作とその登場人物たちの研究が念入りに成されたことが功を奏していることもありますが、幸か不幸か日本語訳で読む私たちにとっては、ある意味原語での書き手の力量以上に翻訳者の選ぶ言葉のニュアンスで作風が左右される部分が大きいこともあり、スティーグ・ラーソンによって書かれた三部作からダヴィド・ラーゲルクランツによって書かれた本作への移行という部分での違和感はあまりなかったと思われます。
 序盤のテンポの悪さはありますが、中々事件の根幹の見えてこないもどかしさが、ミカエルとリスベットが連動し始めると途端に物事の動きが早くなり、結果、そこからは最後まで一気に読ませるだけの力を持った物語となっていると言えるでしょう。
 サヴァン症候群の少年とリスベットとの出会いが、まるで化学変化のような効果を見せる展開や、前作でのリスベットの実父以上に強烈な力を持つリスベットの双子の妹のカミラなど、シリーズの新たなシーズンの幕開けに相応しい素地が本作において形成されているようにも思えます。