恩田陸 『雪月花黙示録』

雪月花黙示録 (角川文庫)

 美しい日本の姿を守る「ミヤコ」と「帝国主義者」の二つの勢力に国を二分された日本。このミヤコので、生徒会の選挙が行われますが、ミヤコの名家である春日家を狙い撃ちにしたかのような事件が次々に起こります。「伝道者」を名乗る反対勢力が次々に仕掛けてくるのに対し、春日家の御曹司の紫風、彼の従姉妹で剣術の天才とうたわれる女子高生蘇芳と萌黄の三人は、どう出るのか。

 近未来のゴシック・ジャパンを舞台とした、これまでの恩田陸とは一味違ったライトノベル的なエンタメに徹したとも言える一作。とはいえ、恩田陸らしい情緒や世界観は根底にあると言えるでしょう。ただ、どちらかといえば「ディープな恩田陸ファンではない、恩田陸を初めて手に取る読者にも魅力的な作品」を狙ったという感じはします。
 それと同時に、懐古主義から抜け出せずに柔軟に発展する力を失ってしまったミヤコと、享楽的に消費を求めるあまりに人間がゆとりを失ってしまった帝国主義勢力という、まさに現代の日本を皮肉ったような世界観もまた魅力の一作。