若竹七海 『さよならの手口』

さよならの手口 (文春文庫)

 勤めていた探偵事務所が事務所をたたみ、そこで働いていた女探偵の葉村晶は古書店のアルバイトで糊口をしのいでいました。ある時遺品整理の古書の引き取りで訪れた家での事故で怪我をして入院した葉村は、たまたま同室になった元女優の老女から、20年前に失踪した娘を探し出して欲しいという依頼を受けます。

 探偵・葉村晶のシリーズ、およそ13年ぶりの新作。わけあって家族と決別して探偵事務所で働いていた主人公葉村晶も本書では四十代になっていたり、かつて彼女が勤めていた長谷川探偵事務所が店じまいをして書店のバイトをしていたり、スマホを駆使したりシェアハウスに住んでいたりと、作品の中の時間も動いていることがうかがえます。
 そんな中、不運にも大怪我をして入院した葉村が久々に受けることになった探偵の仕事は、20年前に行方不明になった女優の娘の捜索でした。この「20年」という時間は、政界のフィクサーの死であったり、バブルの頃にはもてはやされた海辺のリゾートマンションの現在の不良債権っぷりであったりと、随所でしっかりと時代の変遷として描かれていて、作品の中現実の時間を織り込むことに成功していると言えるでしょう。
 著者ならではの、人間の悪意がもたらす苦さといった持ち味も健在で、バイト先で主人公が出会い、その後シェアハウスに越してくる女性との関係や、それが周囲にもたらす理不尽な影響も含め、久々のこのシリーズらしい読み味を楽しめました。また、事件の依頼をしてきた女優とその娘を取り巻く家族関係、20年前の調査をしていた探偵の家族関係など、歪な時代の中で歪んでしまった家族の姿がもたらす救いのないほどの苦さもまた強烈です。
 葉村に引き寄せられるかのように連鎖的に幾つもの事件が本作では絡んできますが、そのすべてが綺麗に解明されそれぞれの結末に辿り着く展開も鮮やかでした。
 また、作中で語られるミステリ談義にも思わずにやりとさせられる一作です。