三上延 『ビブリア古書堂の事件手帖5 栞子さんと繋がりの時』

ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)
 古書にまつわる膨大な知識から、その本の持ち主の人生や心の裡までを見通してしまう、北鎌倉の古本屋「ビブリア古書堂」の店主、栞子さん。そして彼女に告白したものの、返事は待って欲しいと言われた大輔。どうやら彼女たち家族を捨てた母親の智恵子にコンタクトを取ろうとしている栞子さんのもとには、古書にまつわる様々な事件が持ち込まれます。古書の雑誌である「彷書月刊」のバックナンバーを大量に持ち込んでは、暫くすると再びそれを買い取って行く夫人の謎。父親の蔵書である、手塚治虫の「ブラックジャック」をどこかに持ち去ってしまった弟が持つわだかまり。かつて栞子さんに店への立ち入り禁止を言い渡された男は、本当に故人である彼の兄から、寺山修二の『われに五月を』を譲られたのか。これらの謎を解き明かした先に待つ、母の智恵子との邂逅の末、栞子さんがする決断とは。

 栞子さんの能力を見極め、自分のパートナーとして連れて行こうとした母親の智恵子の影が、ある意味で前作以上にかなりはっきりとした存在感を持つシリーズ第5作目。母の智恵子の、そして栞子さんの真意が、事件をひとつ越えるごとに見えてきます。
 そして、自分もまた母の智恵子のようになるのではないかという不安を持ちながら、智恵子とその夫とは違う一歩を踏み出そうとする栞子さんと大輔の姿が、もどかしくも清々しい一冊となっています。
 さらには、ラストで立ちこめる暗雲が、この続きをまた楽しみにさせてくれます。