三津田信三 『四隅の魔 死相学探偵2 』

四隅の魔  死相学探偵2 (角川ホラー文庫)
 希望の大学へと編入した転子は、オカルト好きの集まるサークルの百怪倶楽部に勧誘され、入部します。ですが、寮の地下室の一室で行なった「四隅の間」という儀式めいた遊びをしたことで、その最中に仲間のうちの一人が突然死をするという事故に見舞われます。さらにその後、不気味な黒い女の影が現れ、「四隅の間」に参加したメンバーの周囲で不気味なことが起こり始めます。そして友人の紹介で、人間の死相を見ることが出来る探偵の弦矢俊一郎の事務所に相談に訪れた転子たちには、確かに死相が出ていることが知らされます。

 真っ暗にした四角形の部屋の四隅に五人の人間が立ち、声を発することなく一人ずつ次の角に立つ人物の方を叩き、リレーを続ける。途中、くじで決められた人物は周りに気付かれないように輪を離れ中央に立つ――つまり、四隅に四人ではリレーの最中に一人足りなくなることで、何事も無ければリレーは途切れるのだが…、というこの「遊び」が成立してしまったことで描き出される、じわじわと来る転子の恐怖が本作の見どころの一つとなっているでしょう。
 ライトノベル層をターゲットにした部分があるからなのでしょうが、著者の他作品と比べればこうしたホラー描写にしろミステリ要素にしろ薄めであることは否めませんが、それだけにリーダビリティの高さの確保と、様々な要素のバランスの良さを長所として挙げることは可能でしょう。
 結末の解明部はややあっさりし過ぎている気もしないではありませんが、序盤からの伏線が明らかになることで、作中でとある錯誤が成立していた辺りなど、ミステリ作品としての主張はしっかりとなされていますし、上述した「四隅の間」における描写なども、大きな見どころとなっています。
 ホラーとミステリの比率といった観点から見れば、探偵が「死相を見ることが出来る」という特殊能力を持ち、オカルト的な現象も容認しているものの、あくまでも探偵は「死相を見ることが出来る」だけと、能力を限定しているところが本作の方向性をひとつ大きく決定しているように思えます。
 それは、探偵はその人間が死ぬかどうかの可能性は特殊能力によって知ることが出来ても、その原因が何であるのかを特定するのは、あくまでも調査に伴って繰り広げられる論理的な推理によってである、という点で、本作の主要部分はミステリなのだと言えるのでしょう。