マイクル・Z・リューイン 『探偵家族』

探偵家族 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 一家三代で探偵家業を営むルンギ家を訪れたシェイラー夫人は、朝起きて見ると、本来あるべき場所とは違う場所に台所の洗剤が置かれていることを根拠に、彼女の夫に何か深刻な問題が起こっているのではないかと心底不安に思っていることを訴えます。頑固者の親爺さん、しっかり者のママ、探偵事務所を切り盛りするアンジェロとその美人の妻ジーナ、難しい年頃の長女、好奇心いっぱいの弟。そしてアンジェロの妹のロゼッタは難しい恋愛で家族を悩ませ、探偵家業を継がずに芸術家になった兄のサルバトーレもいいつまでもフラフラと結婚もせずに家族までも振り回します。シェイラー夫人からの依頼に加え、不審な探偵の調査や、サルバトーレの連れて来た女性マフィンの謎の行動など、ルンギ家は総出で走り回ることになります。

 本作は、大掛かりな陰謀も血生臭い場面もほとんどない、どこまでも「家族」の物語が軸となることで、独特の味わいを出すことに成功した作品と言えるでしょう。
 それぞれが個性的なルンギ一家は地域密着型探偵ではありますが、コージー・ミステリというには彼らの近隣住人に割く描写はさほど多くもなく、またシリーズとなった際にレギュラーとなる家族外の人物がごく限られていることを思えば、あくまでも本作は家族小説であるのかもしれません。
 頑固者の親爺さんが、奔放な芸術家気質の長男サルバトーレに対して苦々しい思いを抱いたり、アンジェロが妹のロゼッタの恋の相手に対して複雑な思いを見せたり、またアンジェロとジーナの二人が娘のマリーの口から漏れる「イージー・マネー(ボロいかせぎ)」という言葉を聞いて心配するなど、事件の合間合間に出て来る家族の問題が本作では非常に大きな割合を占めています。それぞれの登場人物の個性を見れば、実に家族小説の中ではステレオタイプとも言える個性ですが、それがきちんと各々の「役割」としてしっくり馴染んでいるということもまた、本作の大きな特徴でしょう。
 事件そのものに関しては、小さな謎が思ってもみなかった犯罪に繋がるという構図の面での魅せ方は若干弱い気もしますが、幾つかに散らした謎を最後に一本の線に繋げる物語の面白さは十分に味わえます。