ナンシー・アサートン 『ディミティおばさまと貴族館の脅迫状 優しい幽霊7』

ディミティおばさまと貴族館の脅迫状 (優しい幽霊7)

 親しい隣人のエマの夫デレクが、実は伯爵家の一人息子であったことを知らされたロリ。伯爵家の後継者問題に絡んで何か良くないことが起こるのではないかというエマの不安を聞き、ロリは彼女の力になることを決めます。偶然にも、ロリの夫のビルが伯爵家に雇われた弁護士として呼ばれていたことで、幽霊となっていつも何かと助言をくれるディミティおばさまにも同行してもらいロリは、伯爵家へと向かいます。ところがロリたちを出迎えたのは、伯爵家自慢の庭園に突然起こった不審火でした。さらには、伯爵家の後継者候補になり得る立場にある、デレクの従兄弟サイモンのもとに、脅迫状が届けられていることがわかります。

 シリーズ7作目の本作は、物語は小さな田舎の村を出て、貴族の館を舞台に繰り広げられることになります。シリーズ5作目でも、物語の舞台は村から離れてはいましたが、本作ではそれに加えて、主人公のロリ自身はあくまでも事件のオブザーバーの立場にあるという点が特徴的と言えるかもしれません。
 そして本作では、これまで以上に「家族」というキーワードが物語の核となっていますが、その「家族」を主人公がある程度客観的な立場から見て、さらにその上で自分の家族を思うという構造が生きることになっています。
 本作において重要なポジションにあるデレクは、父親との深い確執を抱え、父親の伯爵の意に逆らって職人としての道を自ら選択しています。デレクの子供たちの存在によって、伯爵とデレクとの間に歩み寄りの気配は出ているものの、周囲の人間の思惑が絡むことでこの父子関係がまた複雑なものとなってきます。本作では、デレクの従兄弟のサイモン、サイモンの妻で弁護士のジーナ、そして弁護士同士でもある夫のビルとジーナとの関係に疑いを抱いてロリもまたやきもきさせられるなど、人間的な要素が複数絡むことで物語が面白くなってきています。
 そして、こうした下地があるからこそ、結末で浮かび上がる犯人の姿は、読み手に深い余韻を残します。事件が解決し、登場人物たちの抱える問題が落ち着くべき所に落ち着いてもなお残る、物悲しさのようなものもまた印象的な一作でした。