J・D・ロブ 『歪んだ絆の刻印 イヴ&ローク43 』

歪んだ絆の刻印 イヴ&ローク43 (ヴィレッジブックス)

NY市警の精神分析医であるドクター・マイラの夫であるデニス・マイラは、祖父から相続した邸宅を売却しようとする従兄弟との話し合いをしようとその家に出向きます。ですがそこで見たのは、暴行を受ける彼の従兄弟の姿であり、デニス自身も何者かに殴られて昏倒してしまいます。意識を取り戻したデニスから連絡を受けた妻のドクター・マイラは、親しくしている警部補のイヴに助けを求めます。そして、何者かに連れ去られたデニスの従兄弟は、警察が捜査を始めた矢先に残虐な拷問の末、吊るされて殺害された遺体となって発見されます。

今作で被害者とその周囲を調べるにつれ、明らかになってくるのが、被害者が殺されるに至る理由の正当性とでもいうべきものです。これまでは大抵、犯人の異常性や傲慢さといった歪みが被害者へ向けられ、犯人を追いつめることが正義でるという構図でしたが、本作ではこれが一転して、加害者側の正義とでもいうべきものも存在し、唾棄すべき被害者のためであっても警察が犯人を追いつめなければならなくなります。
かつて幼かった自身も「被害者」であったイヴが、苦しみながらも「警察官としての正義」を貫く本作は、彼女が周囲の人に支えられ過去から脱却してきたという、シリーズの歴史があった上で初めて成立した作品だとも言えるかもしれません。