探偵助手を育成することを目的にした大学のゼミで、第一次志望も第二次志望も通らなかった君橋と月々の二人は、名前を聞いたことすらない猫柳という探偵のゼミに入ることになります。ですが現れた猫柳探偵は、事件の解決経験もない頼りなさげな若い女性でした。名門の雪ノ下ゼミと合同で、孤島での合宿を行うことになった猫柳ゼミですが、奇妙な状況で女子学生の死体が発見されたことで、連続殺人事件の幕が上がってしまいます。
「犯罪を未然に防ぐことを至上とする名探偵」という、ある意味では本来正しい、けれども殺人という衝撃的な出来事の数を稼げないことでフィクションとしては、事件が不発に終わって退屈な展開になりかねない縛りが、本作には課されています。ですがその辺り、北山猛邦らしい凝りに凝った物理トリックの仕掛けや、ライトノベル的なキャラクター主導要素を上手い具合に取り入れ、テンポ良く物語は進んでいきます。
また、本作でも著者の他作品と同様に、事件のために物語世界の特殊なルールを構築するという変格・脱格系の要素を下敷きとしながらも、探偵助手の役割や探偵と助手の関係性、結末部においての探偵と犯人との対決という場面での盛り上がりなども極めてオーソドックスであり、実に探偵小説らしい探偵小説として読むことも出来るでしょう。
ただ、事件の核となるミッシング・リンクの真相や、それを作るに至る動機に関しては、些か強引で作中においてもリアリティと説得力に弱い部分は否定できないかもしれません。ですが、かなりトンデモ系な動機であっても、それを物語の中で力技で成立させてしまうようなパワーがあるのも事実。
それは、物語を牽引するキャラクターの良さ、リーダビリティの高さや、ミステリとしての独自性や面白さが、本作では確固足るものであることに起因しているのかもしれません。本作には、現代ミステリとしては数少ない、独自性の高い物理トリック、探偵と助手との関係の考察など、最もオーソドックスなミステリの姿をみることが出来るでしょう。