北山猛邦 『猫柳十一弦の失敗 探偵助手五箇条』

猫柳十一弦の失敗 探偵助手五箇条 (講談社ノベルス)
 合同ゼミ合宿の事件で知り合った小田切が相談してきたのは、友人の後鑑千莉に届いた脅迫状に関するものでした。成人するまでに結婚しなければならないという村の古い因習が残る旧家、後鑑家の四女として生まれた千莉には、三人の姉たちにも届いた、村の伝承に残る"龍姫"の署名の入った脅迫状が届きます。

 探偵や探偵助手を育成する大学の、無名の名探偵猫柳十一弦とゼミ生君橋、月々の登場するシリーズ第2弾。
 事件が起こる前に解決することを至上の命題とする名探偵という設定により物語は、事件の萌芽を見つけ、いかにして連続殺人を起こさせないかというものになります。そうした部分で本作は、犯行がなされた後に犯人が残した手掛かりを辿り、誰が犯人なのかのフーダニットを目的とするミステリとも、不可能状況と思われる犯行が如何にしてなされたかのハウダニットを目的とするミステリとも異なる、斬新な基軸を持ったシリーズと言えるでしょう。
 そして、著者らしい大がかりな物理トリックは本作でも健在ですが、その反面、「事件を未然に防ぐ探偵」という縛りがあるので、事件の芽を悉く摘み、トリックを無効化するという点では、一歩間違えれば単調になってしまうところを上手く纏めてきた一作と言えます。
 さらには、物語は作中の時間軸のままに展開されながらも、各章のタイトルが、「大団円」からはじまり、「魅力的な謎」で終わるという、ある意味タイトルだけ見れば時間軸も逆転したかのような遊びの部分も楽しめます。ライトノベル的な手法で、キャラクターの恋愛要素をここぞとばかりに盛り込みながらも、トリックの独創性や、そもそもの探偵の基軸の特異性など、読ませどころはしっかりした作品と言えるでしょう。