日本で唯一、「魔学」を研究する研究機関である城翠大学。この城翠大学の魔学部に、世界で六人だけ存在するという魔術師が招聘されます。そして、医学部を蹴って魔学部への入学を果たした通学途中の天乃原周が出会った人物こそ、魔学の総本山「オズ」から招聘された六番目の魔術師、客員教授の佐杏冴菜でした。波乱含みの大学生活をスタートさせた周ですが、さらに佐杏のゼミに入ることとなり、他のゼミ生たちと顔合わせをした初回のゼミが始まろうとするまさにその時、突然流れた校内放送で何者かによって殺人ゲームの開始が予告されます。犯人は何を意図して殺人ゲームを始めたのか。そして七つの偽計とは一体何なのか。
著者のデビュー作を改稿した作品。
単なるライトノベルと思いきや、本作は作品世界の設定と本格ミステリが極めて高度な作り込みによって融合した作品と言えるでしょう。「魔術」や「魔術師」というものの存在は、ある意味ミステリに於いては不可能を可能にしてしまうように思われがちですが、本作ではその力の作用が極めて限定的に設定されることで、本格ミステリのトリックとロジックを形成しうる土壌となっていると言えるでしょう。この辺り、非常に複雑な設定が、佐杏冴奈という癖のある探偵役が世界観のナビゲーター的役割をも果たすことで、読者には分かりやすく提示され、フェアな謎解きの舞台を作り上げている辺りにも構成の上手さを見ることができます。
さらには、終盤のめまぐるしい展開とひっくり返される事件の真相の末に仕掛けられていたメタフィクション的な構造もあって、凝ったつくりの作品となっていると言えます。特に大仕掛けで仕掛けられた「七番目の偽計」については、それなりに読み慣れている読者にはピンとくる部分もありますが、フェアとアンフェアのギリギリを見極めながら書いているような、良い意味でのあざとさも感じられる一作。
著者自身があとがきで少し触れていますが、良く言われるように「デビュー作にはその作家の全てが詰まっている」というように、様々な要素を効果的に配置した意欲作と言えるでしょう。