北山猛邦 『クロック城』殺人事件

「クロック城」殺人事件 (講談社文庫 き 53-1)
 世紀末、世界の終末までのカウントダウンが行われる荒廃した日本で、探偵の南深騎は『クロック城』からやって来た瑠華の依頼を受けることになります。少女の依頼とは、『クロック城』の地下室に浮き出た不気味な顔の謎と、それに関わっているのではないかという幽霊「スキップマン」の退治でした。世界の滅亡の鍵となる存在を殺して回る武力集団SEEMに狙われる瑠華を守り、探偵の深騎と幼馴染の菜美を迎えたのは、十分遅れた「過去」の時計、「現在」の時計、十分進んだ「未来」の時計の三つの時計を持つ、『クロック城』でした。

 著者のデビュー作となる本作においても、事件を成立させるために終末の世界を創造するという手法は既に取られていますが、やはり様々な要素が未消化なままであるということは、指摘せざるを得ないでしょう。「真夜中の鍵」とは、ドール家の血筋の謎とは、SEEMと十一人委員会の攻防は…と、今ひとつ明確な決着がつかないままに幕を閉じた物語には、中途半端感が拭えません。
 SFというよりもファンタジーに近い世界構築をしてミステリとしては極めて異色な作品になっている反面、本作において肝心要の物理トリックに関しては非常にオーソドックスな物であるといえるでしょう。トリックの魅せ方に関しては些かあからさま過ぎて難易度も低くなってしまっており残念ではあるものの、本格ミステリとしての要件は満たしているという部分での評価は可能であるように思います。
 また、真相解決部における犯行の動機の解明がなされた後、著者がこの大掛かりな作品世界を構築した理由も綺麗に見えてくる辺りも非常に面白いところ。
 ただし、実にライトノベル的で「薄い」キャラクター造詣や世界構築に関しては、読者をかなり選んでしまう部分はあるように思います。