奈良県の人里はなれた山里、波美地方の集落。そこで行なわれる「水魑様」を祀った祭事を見るために、作家の刀城言耶は編集者の祖父江偲を伴って集落を訪れます。四つの村からなる集落は、それぞれの村に神社があり、中でも一番の権勢を誇る水使神社には、何やら神事に関係して秘密がありそうなことが窺がわれます。そして、かつて儀式を取り仕切った者が命を落としたことが一度ならずあるといういわくつきの神事で、刀城言耶の目の前、小舟だけが浮かぶ湖の上で、再び連続殺人の幕が上がります。
怪奇幻想作家の刀城言耶のシリーズですが、本作はどちらかといえば厳密なロジックによるミステリの度合いが強めで、ホラー要素を感じさせる独特の空気はシリーズ中でも控え目。
きっちりと提示された伏線を推理によって再構築し、その論理の弱い面を補う別の推理を重ねるという方式で謎解きは展開され、実に精緻なミステリに仕上がっているということはできるでしょう。
ただし、シリーズの他作品と比べれば些か地味な印象も否めず、特に終盤での真相の解明部分は、やや見せ場の演出が弱いということも指摘できるかもしれません。
ですが、冗長な説明で終始しそうな因習や人物関係の説明を、正一というキャラクター視点の物語を同時進行させ、さらに刀城言耶らのテンポのよい会話に盛り込むことで、独特の暗い空気を持つ世界にしっかり読者を惹き込む手腕は相変わらずの上手さ。
シリーズ作品世界の今後の広がりを予感させる部分もあるので、そちらにはまた期待したいところ。