福田栄一 『春の駒 鷺澤家四季』 

春の駒 鷺澤家四季 (ミステリ・フロンティア)
 両親と祖母、三兄弟という、六人家族の鷺澤家の二男、高校生の葉太郎。マラソン大会に出る父を家族で応援する中、将棋部の新入生歓迎のために作った、発泡スチロールの被り物を台無しにしたのは家族の誰なのか。様子がおかしかった祖母の民枝が、ある時突然姿を消してまた戻ってきたのは何があったのか。レーシングチームを結成している母の千種ですが、大会直前にある事故が起こってしまった背景とは何だったのか。発券した時に瀕死だったフェレットを動物病院へ連れて行ったものの、助からなかったという出来事の後、そのフェレットの葬儀をあげる寺へと呼ばれた葉太郎がトイレに閉じ込められてしまった顛末とは。

 鷺澤家の二男の葉太郎を主人公とし、家族の周辺を舞台とした、著者初の日常の謎系連作短編集。
 描かれる「どこにでもありそうな」家族は、今の時代だからこそ決して「どこにでも」はない、それぞれが好き勝手に生きているように見えても根底でしっかりを互いを思いやっている家族として描かれます。こうした「家族もの」にありがちな、いかにもレトロで「いい話」というものを決して前面に出すわけではなく、淡々と日常を綴った描き方というのが、本書の良い個性となっているように思います。
 さらには、個別に見れば誰も彼も一癖ある個性的な人物造詣の登場人物が揃っている反面、物語の展開はあくまでも淡々としており、大きな事件や劇的な展開をを必要としない「日常の謎系」らしい作品に仕上がっています。こうした物語をしっかりと読者に読ませるだけの素地を持った作品として、本作は評価されて良い一作と言えます。
 やや、探偵役の存在感は控え目ではないかという気もしますが、今後のシリーズ展開を期待したい作品でした。