若竹七海 『プラスマイナスゼロ』

プラスマイナスゼロ
 葉崎山高校に通う、見るからに不良の成績最低極悪腕力娘のユーリと、見るからにお嬢様の成績優秀品行方正のテンコ、そして全てが全国平均というミサキの三人が出遭う事件を集めた短編集。この世のものとも思われぬほどの運の悪さを誇るテンコが死体を見つけた挙句その幽霊に取り憑かれたり、三人で廃屋となったレストランでクリームソーダを飲んでいたら不審な女性の姿を見たりと、三人は次々に事件に遭遇します。

 若竹七海の描く架空都市の「葉崎市」のシリーズ。これまでに描かれてきた「葉崎」というローカルな町の持ち味を活かし、著者らしいコージーミステリの風味は本書でも十全に発揮されています。そしてさらに本書のレーベルの特色なのか、「青春」という味付けがなされ、元気な女子高生三人の凸凹トリオっぷりが何とも軽妙なシリーズに仕上がっていると言えるでしょう。
 その作品の中ではフーダニットそのものは必ずしも重視されないものの、滅茶苦茶な三人娘のパワーで展開される物語はどれもリーダビリティが高く、本書は、どこかズレた田舎町の舞台立てと個性的な登場人物のかもしだす空気が何とも楽しい作品となっています。
 時折若竹作品に見られる毒は今回はさほどでもないですが、その分真っ直ぐでハチャメチャな女子高生達の活躍がストレートに気持良いと感じる1冊でした。