綾辻行人 『Another』

Another
 父親の仕事の事情で祖父母の家に近い高校に編入した榊原恒一は、初日を迎える前に持病の再発で入院を余儀なくされてしまいます。予定より大幅に遅れた転校初日、編入先の三年三組はどこか違和感を感じさせるものがありました。「いないもの」であるクラスメイト、「三年三組の呪い」、紛れ込んだ死者。二十六年前から続く秘密は、誰にも話してはならないそのクラスに起こる死の連鎖でした。

 膨大なボリュームをものともしないリーダビリティ、序盤から「何か」があることを感じさせる雰囲気作りは、これまでの著者の集大成とも言えるもの。小さな違和感が物語が進むに従いはっきりとした「非日常」としての姿を見せ、徐々に物語の全貌が見えてくる構成に惹き込まれます。
 現実にはいるのかいないのか分からないクラスメイトという、序盤での幻想づくりの演出の良さもさることながら、ミステリで培った手法とホラーのムード作りとの相乗効果が実に上手く出ていると言えるでしょう。
 物語が進んで少しずつ謎の正体が明らかになるに従い、序盤から挿入されていた会話部分が誰によるどういった意味合いのものなのかが徐々に分かってくる部分といい、結末において明らかにされる「フーダニット」の伏線、演出からその全てがじわじわと効いている作品に仕上がっています。
 物語のキーとなる少女の周りには、"マリアの心臓"を思わせる場所や、登場する人形の持つ空気など、亡き人形作家天野可淡へのオマージュが感じられたりする部分でも楽しめました。
 あらゆる部分で、著者らしいテイストの凝縮された作品と言えるでしょう。