三津田信三 『忌館 ホラー作家の棲む家』

忌館―ホラー作家の棲む家 (講談社文庫 み 58-1)
 友人の祖父江耕介から、彼が下読みをしているホラー小説大賞に、三津田信三が書いたと思われる応募作があったと知らされますが、三津田自身にはそんなものに覚えはありませんでした。身の回りで起こったそんな奇妙な出来事を気にしながらも、偶然にも三津田は、『迷宮草子』というマニア向け同人誌に掲載するホラー小説の執筆を依頼され、その執筆のための雰囲気にピッタリな木造の洋館を見つけて引越しをします。かつて「人形荘」と呼ばれていたらしい、英国から移築されたハーフ・ティンバー様式のその洋館を舞台にして三津田は、『忌む家』という連載を開始します。家族でこの洋館へ引っ越してきた少年の身に起こる怪異の物語を書き進めるうちに、かつて「人形荘」で起こった事件の影響が三津田自身の身の回りにも見え隠れし始めます。

 『作者不詳 ミステリ作家の読む本』『蛇棺葬』『百蛇堂 怪談作家の語る話』と続く、著者と同名の作家三津田信三を主人公に据えたシリーズの第一作にして、著者のデビュー作。「幻」になってしまった講談社ノベルズ版で読んでいるので再読になりますが、巻末には『ホラー作家の棲む家』の後日談にして、この「人形荘」の過去に触れる短編である「西日『忌館』その後」も収録されています。
 「デビュー作にはその作家の全てがあらわれる」というように、まさに本作にはホラーとミステリの融合やある種のメタ志向など、この先著者が書いていく物語の下地になるものが数多く含まれています。
 ホラーかミステリかと言われれば、明らかに本作はホラー作品ではあるものの、緻密なメタ構造や、館の過去が徐々に明らかになり、物事の因果関係の糸が解されていく過程などは、ミステリ的な下地がしっかりとあるからこそ楽しめるものと言えるでしょう。
 確信犯的に現実の著者自身の経歴を取り込んで、「三津田信三」を虚構と現実を曖昧にするためのガジェットとして用いるという手法によって本作は異様なリアリティを持ち、現実と虚構が曖昧であることからくる妙な気味の悪さを感じさせる作品としています。さらには作中作である「忌む家」の怪異と、その書き手である主人公の三津田信三の「現実」の境界線が曖昧になることで、複雑なメタを形成しているということが出来るでしょう。
 終盤になって、加速的に現実と虚構の境界が崩れるさまはまさに圧巻で、さらに「あとがき」と短編『西日』で現実と虚構がせめぎ合いが続くことによる、独特の読後感もありました。