畠中恵 『うずら大名』

うずら大名
 名主の家の三男に生まれ、家督も継げずどこか婿入りする当てもなかったものの、長兄は亡くなり次兄は養子へ行っていたため、家を継いでいた吉之助が、ある晩何者かに襲われます。それを助けたのは「御吉兆ーっ」と鳴きながら飛んできた白いうずらと、その飼い主である武家の有月でした。かつて吉之助らと同じ道場に通っていた昔馴染みの有月は、吉之助の周囲で起こる様々な困りごとを解決し、吉之助は有月の藩に金子を用立てる「大名貸し」となりますが、江戸近隣で大名貸しをする豪農たちの不審死や、幕府の根幹を揺るがす陰謀に立ち向かうことになってしまいます。

 大人になっても泣き虫なままの吉之助や、不思議で可愛いうずらの佐久夜、切れ者だけれどもどこかすっとぼけた有月など、個性的なキャラクターによって軽妙に繰り広げられる物語。
 ですが、物語が進み事件の裏にある陰謀と、それに関わる者たちの姿が浮かび上がって来るにつれ、吉之助たちの哀しみがずしんとくる作品となっていると言えるでしょう。軽妙さの中にあるからこそ、最後の結末に込められた苦さが静かに引き立つ一作。