伊坂幸太郎 『オーデュボンの祈り』

 『重力ピエロ』で一気にブレイクした伊坂幸太郎ですが、個人的にはこの『オーデュボンの祈り』の方が好きです。こちらの方がやさしくて哀しくて、読んでいて心地良い世界ですね。

 ファンタジーと言うよりはあり得ない御伽噺のような設定なのですが、読み終えてみれば物語の中においては喋るカカシも不文律ながら殺しのライセンスを持つ男も島の鎖国もキッチリとリアリティがあります。その世界がまた、いつ崩壊してもおかしくないような危うさがあってまたいいんですよねぇ。
 絶滅してしまったリョコウバトを想い、その姿を絵に描きとめることしか出来なかったオーデュボンと、未来も全て見通せる存在でありながらも、カカシでしかなく誰を助けることも出来ずただ見守ることしか出来なかったカカシの優午。その両者の祈りの哀しさが切ない1冊でした。