米澤穂信 『クドリャフカの順番』

クドリャフカの順番―「十文字」事件

 2001年に刊行された『氷菓』、続いて2002年の『愚者のエンドロール』に続く古典部のシリーズの3作目。勿論前2作とは完全に独立した物語として楽しめるのですが、繋がっている部分も大きいので刊行順に読んだ方が楽しめるのは確か。

 物語は、手違いで大量に刷ってしまった古典部の文集を何とか売らなければ、という四人の部員のあれこれの画策と、学園祭の裏側で起こる連続盗難事件のミッシングリンクという、二つの軸によって構成されています。
 どちらも非常に軽妙なテンポで、しかも四人の視点を細かく切り替えて、それに無理が無く読みやすかったです。
 それぞれの視点の中では、四人それぞれの鬱屈した思いなどもちりばめられているのですが、その最終的な落とし方はすっきりとしたものに思えます。もっとも、奉太郎だけは最初から最後まであくまで変わらず、でしたが。

 そして文集を売るために四人がする様々な行動という方のストーリーは非常に良く出来ていて、「読ませる」話だなという印象。
 学園祭の中で起こった連続盗難事件に関しても、文集をさばいていくプロセスと上手く重ね合わせ、事件そのもののミッシングリンクの使い方は非常にミステリ好きのツボを突いたものだったといえる。この謎に関しては、かなりフェアに初期の頃から示されてはいるのだが、いかんせん奉太郎が謎に気付くためのあるものを手に入れるプロセスが、些か都合が良すぎる感がある。
 結末に関してはもうひとつ引っ張ることも出来たのでは?と思わないでもないが、非常にスッキリと綺麗に落とすべきところに落としたなという印象です。
 ただし、上記で述べた様に「もう一つ引っ張ることも出来た」と言う根拠のひとつとしては、意味ありげで魅力的なこの「クドリャフカの順番」というタイトルそのものを、更に生かして欲しかったということはあります。
 ですが全体的に評価すれば、伏線の使い方も無駄がありませんし、読後感も良く、かなりの良作だなと思います。