恩田陸ならではのファンタジーとして、そしてこの作品世界ならではのミステリとして、ボリューム・内容ともに文句無しの大作でした。
描かれる世界は架空の土地であり、英国と日本の文化が融合したV.ファー、死者と出会える聖域アナザー・ヒル。そして英国や日本、アメリカなども勿論存在していますが、パラレルワールドのようなもので、日本は英国の植民地であったなど、面白い設定になっています。
年に1度1ヶ月間、アナザー・ヒルで行われる『ヒガン』という行事に参加するために東京からやって来た大学院生、ジュンイチロウの視点で、この摩訶不思議な世界で起こる事件を追って行きます。
死者が生者と同じようにやってくる『ヒガン』では、『お客さん』――つまり死者の言葉が法的な証言として採用されるという、ある意味ミステリにおけるフーダニットを無意味化してしまうような設定の中、物語は開始されます。
その年連続殺人犯『血塗れジャック』の正体、『ヒガン』の最中に次々と起こる事件、さらには密室状態での人間消失まで、ミステリとしてもしっかり楽しめました。それぞれの謎の解決も、この作品世界ならではのものであったりと、独自性の高いものでした。
とにかく作品の基盤となる『世界』がしっかりと形成されていて、主人公のジュンイチロウと共に、違和感無くこの世界に入り込めます。
物語のテンポも良く、恩田陸のストーリーテリングの上手さが感じられる作品でした。
最後の結末にはある種の予定調和的なものも無きにしも非ずですが、ほんの少しだけ邪悪さを感じさせる余韻を残すなど、個人的には好きな終わり方でした。