ジェイン・アン・クレンツ 『迷子の大人たち』

迷子の大人たち
 借り物のロマンス小説もだいぶ冊数をこなしました。
 ジェイン・アン・クレンツに関しては、『優しい週末』に続いて2冊目ですが、個人的にはこちらの方が話としては面白かったです。
 贋作を見抜く審美眼に長けた美術コンサルタントである主人公のキャディと、行方不明になった美術品の追跡を仕事とするマックという人物設定も生きていますし、偏屈な大富豪の伯母の突然の事故死と、その伯母の死の少し前からの不可解な行動を解き明かすという、ミステリ部分もこの種の小説としてはかなりしっかり描かれています。そして勿論、ラストまで二転三転する展開も楽しめます。
 ただ、主人公の人物造詣については些か、パニック障害という部分は活かしきれていなかったのではないかという点、そしてヒーロー役であるマックの描き方が浅く、もっと掘り下げれば魅力的な設定であったのにという、人物面での書き込みに対する物足りなさは若干無きにしも非ずでした。
 全体として、十分に楽しめる1冊であったのは事実ですが、原題の"LOST & FOUND"(マックの経営する美術品追跡のための社名と掛けられている)を『迷子の大人たち』と訳してしまったところは、少しつまらないように思います。